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Lancia Strato's Prototipo [ランチア・ストラトス]


70年のトリノショーに出品されたコンセプトカーのベルトーネ・ストラトス・ゼロはあまりに非現実的なデザインでしたが、当時ランチア・フルヴィア1.6HFでアルピーヌA110に苦汁を飲まされていたHFスクアドラ・コルセの監督であったチェザーレ・フィオリオは、ストラトス・ゼロのようなミッドシップカーが必要だと悟ります。
彼は早速ランチアのワークスチームに発展したクラブのその立場を利用して働きかけ、より現実的なデザインでコンパクトなミッドシップカーをベルトーネに設計依頼するようにランチアに提言します。
当初エンジンはこれまでと同様フルヴィア1.6HFのものが使われましたが、パワー不足は否めないので、既にランチアと同じくFIAT傘下に入っていたフェラーリのディーノ246GTのユニットを供給してもらえるように策を廻らします。
ディーノのユニットはアルフレディーノ発案・ランプレディ設計と思われがちですが、元はランチアのフォーミュラーカーのD50と共にフェラーリに派遣されて、そのままレーシング部門の顧問として残った天才設計士ヴィットリオ・ヤーノが設計した1.5ℓフォーミュラーカーがその起源になります。
ですから、当初出し渋ったフェラーリ御大も、親会社のフィアットの仲介やランチアから委譲された設計士とランチア・フェラーリD50でチャンピオンシップに返り咲いた過去がある以上、仕方なく認めざるを得なかったのでしょう。
しかし、ヤーノがランチアに残っていて、ランチアにそれなりの財力があったら、フラヴィア1.8やフラミニアの2.7ℓユニットを発展させた奇想天外な新エンジンができていたかも知れません。
いずれにせよ、ストラトスは当初からコンペティションカーとして再設計されることになる訳ですから、そこから直接商品としての利潤を得るような目的はありませんでした。
と言うことは、レースで名を挙げてランチアのブランドイメージを上げると言う目的
のために大金を費やすことになる訳で、親会社のフィアットとしてもできる限り無駄な散財を避けたかったのは言うまでもありません。

プロジェクトが正式に発足し、ベルトーネにHFスクアドラ・コルセの意向を伝えて再設計され、71年に再びトリノショーに出品されたのがこのランチア・ストラトスHFプロトティーポです。
やはりマルチェロ・ガンディーニのデザインになるもので、量産型と基本的に同じシルエットを持ちます。
エンジンはディーノユニットの横置きですが、当初はフルヴィアの5速ギアボックスを下に取り付けていました。
しかし、ハイパワーのエンジンとの組み合わせでは耐久性の点で不安が残るため、ZF製のものを用いることになります。
また、エンジン自体もスクアドラ・コルセの意向を反映して、カムシャフトやバルブ回りのセッティングを一新し、ラリーユースに合わせて最高速を捨てて中低速を強くしています。
72年には早速グループ5扱いでいくつかのレースやラリーに登場しますが、そこで色々な部分が煮詰め直されて、例えば当初リアもWウィッシュボーンだったサスがシンプルなマクファーソン・ストラットに変更されたり、ガソリンタンクが左右に装備されて給油口も左右に開けられたりしました。
そうした実戦のテストを繰り返して74年にようやく年間500台のグループ4のホモロゲーションを取り付けてシーズン半ばから正式にWRCに参加してチャンピオンシップを奪取する訳です。
しかし、この500台と言うのは実は大嘘で、生産は400台未満でした。
途中からGr.4のホモロゲーションが400台に縮小されますが、それにも至らなかったのに認可を取れたのは、500台分のパーツの生産が完了していたからで、これをベルトーネ工場で組み立てが済んでいないのに「生産されるであろう」と言う見通しでOKが出たんです。
でも、途中ベルトーネ工場の火災などがあり、実際には80年代になっても正式な生産台数に至っていなかったらしいです。
現在不動であっても存在が確認されているストラトスは380台強だそうで、多くの場合が生き残っているものと思われます。

さて、プロトティーポと量産型ストラダーレのその他の違いを見てみますと、最も顕著なのはリア周りですね。
バックランプがウィンカーなどと共に丸いテールランプの中に一体化されていますが、ストラダーレではフィアット・アバルトTCなどに使われた既存の丸い上下2分割レンズが使われ、バックランプは長方形のものが別に2個使われています。
マフラーも大幅に異なり、サイレンサーがはっきりと見えず、4本の排気口のみが出ています。
カウルの開閉も外にノブを設けていませんね。
スポイラー類もありませんが、ストラダーレでも当初は付けられていませんでした。
しかし、
リアのブラインドも取り払われていますが、これは量産型では当初から追加されました。
ワイパーも中心から左右に分かれる形で2本付いています。
ホイールも異なったデザインですが、実はこのホイールも野心的なもので、6Jから8Jまで調整可能なんだそうです。
銘柄はカンパニョーロですが、設計はベルトーネによるものです。
内装もかなり異なっていまして、シートはバケットながらリクライニングできましたし、メーターパネルは一体型ではなく、それぞれの計器類が筒に入ってダッシュボードから独立して飛び出ているようなデザインでしたが、例のヘルメットの置けるドアポケットはプロトティーポにも付いていました。
ストラトス・ゼロよりも随分現実的にはなりましたが、それでも当時の皆さんはこれで過酷なモンテカルロやサファリを走るとはとても思えなかったでしょうね。
これを作り上げた皆さんの頭が成層圏の向こうにぶっ飛んでいたのでしょう(^∇^)

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くっさん。

異母兄弟のくっさん。です(^^)
やはりストラトスの生産台数は、圧倒的に少ないですね。
でも、ラリーカーなのに現存が多いのが不思議。
成績が良かったからコレクターが大切に引き取ったのかな?
今月のカーマガジンはストラトス特集でしたね。
まだ読めてないのですが、トプ・ガバチョ さんの記事で勉強できましたよ。
by くっさん。 (2007-09-07 16:08) 

トプ・ガバチョ

お義兄さん、こんにちは(^^)
生産台数は元々売れる車でないことは分かりきってましたから、話にならんのは当然として、だからこそフィアットも売り上げに貢献しないストラトスをまだまだ第一級の力を持っていたのに131アバルトと無理矢理交代させることになったんですね。
仮に売り上げを無視してワークス活動を続行していたら、間違いなくデルタの6年連続チャンピオンと同じかそれ以上の活躍はできたはずです。
アウディ・クワトロが力を付けてくる80年まではほとんど敵はいなかったように思えますね。
by トプ・ガバチョ (2007-09-07 17:37) 

hiro

はじめまして。
ストラトスいいですね!いつかは乗りたい憧れの車です。
by hiro (2007-09-09 21:19) 

トプ・ガバチョ

hiroさん、初めまして。
派手な見てくれとは裏腹に、ちゃちい作りの車ですよ(^^)
でも、かなり下からトルクがありますから、運転そのものは簡単でクセもありません。
はっきり言って、よく言われるようにすぐくるっとスピンすると言うのはウソピョーンで、この車でテールを流すような運転をしていたら、それは他の車でもとんでもないスピードでして、「狭い峠道でそんなことができるあなたはサンドロ・ムナーリだ!」と言ってあげたいです。
つまり、かなり頑張ってもコーナーでは滅多に滑らないし、ハンドリングもニュートラルですから、乗り易いことは間違いないんですよ(^^)v
by トプ・ガバチョ (2007-09-09 21:50) 

hiro

そうなんですか!?
自分のイメージしてた車とは随分違うんですね!
というか、世の中の間違った情報に流されてたような...
小学生の最終学年にスーパーカーブームを経験し
ストラトスは、それ以来の憧れの車ですので
オーナーの方からの生の声が聞けて凄く興奮してます(笑)
ちょくちょく顔を出させてもらいますので
今後とも宜しくお願いしますm(__)m
by hiro (2007-09-09 23:08) 

トプ・ガバチョ

>hiroさん、こんにちは!
そうなんですよ、かなり大げさな情報が当然のことのように言われますよね。
具体的に言いますと、丹沢の県道になる峠道では、よほどのスピードでコーナーに突っ込まないとすべることはないです。
短いストレートを60-80km/h程度で走っていて、コーナー手前では40-50km/hに落としておけば、まず大丈夫です。
さすがに180度ターンするようなコーナーでは40km/hでは厳しいでしょうが、それはどんな車も同じですよね。
逆に90度以上の大きなコーナーですともっとスピードが出ていても大丈夫です。
視界の広さもよく言われることですが、上下の幅が狭くて別段広くはないです。
横もすぐピラーが目に入りますから、外見からの印象とはやっぱ違いますね。
逆に高回転型に思えるショートストロークエンジンですが、かなり下からフレキシブルで、乗った人は皆さん乗り易いと言います。
まあ、ワークスカーはチューンの度合いが高く、若干大変でしょうが、ただ乗りづらいとラリーの長丁場では神経が磨り減りまくりますから、やはりさほど苦しいものでもなさそうです。
ちなみに、24バルブのワークスマシンの助手席に乗せてもらって首都高を走ってもらったことがありますが、操作そのものは市販モデルとさほど変わらない感じでしたよ。
凄い加速でエキセントリックでしたけど(^^)
by トプ・ガバチョ (2007-09-10 11:59) 

ヒロッキー

こんにちは!
いやーストラトス、良いですね。
生産台数が少ないことは知っていましたが、そんなに少ないとは知りませんでした。勉強不足ですね。
10年以上前、デルタを所有していたときに、東久留米のFLCMで、売りに出されていたストラトス、いつか所有したいと思っていました。今でも所有したいけど、宝くじが当らないと無理ですねw
by ヒロッキー (2007-09-10 17:03) 

トプ・ガバチョ

ヒロッキーさん、こんばんは!
総生産台数は400台程度らしいですが、何でも80年代に入っても売っていたそうです。
かなり売れ残っちゃって、さばくのに大変だったんでしょうね。
FLMCさんはワテも当時から利用させて頂いている信頼できるショップですよね。
10年前なら結構値が崩れ始めた頃で、2~3年前が谷底でしたから、安く買えたかも。
何でも今都内に出ている青いやつは1900諭吉だそうですが、バブリーな頃はきれいな車体で3500でしたからねぇ。
ワテもトンでもない時に手を出しちゃったもんですよ(^^)
by トプ・ガバチョ (2007-09-10 22:02) 

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