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具だくさんの箱だった@『蠢動-しゅんどう-』ブルーレイBOX [映画・TV関連]

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 昨年の10月に横浜で『蠢動-しゅんどう-』が公開されて、それを観に行った時の感想はこちらにまとめましたが、待ちに待ったブルーレイディスクBoxが8月8日に発売されました\(^∇^)/ ワテは前もってAmazonから予約していたので、即日宅配されましたが、問題は我が家にはブルーレイのプレーヤーがないこと。VHSやβ、Hi8やminiDV、LDにDVD等、ほとんどの映像再生機器は揃っていたんですが、BDだけは何しろソフトを1枚も持っていないので不要なため、これまで一度も買ったことはなかったのですが、今回この『蠢動-しゅんどう-』BD-Boxの発売を機に、プレーヤーだけでもと思い、格安なパイオニアのものを同時購入しておきました。それらが昨日いっぺんに届いたので、早速開封して楽しんじゃいました(^∇^)v
 このBD-Boxは本編と5つの予告編が収まった「予告編集」、三上監督による「ネタバレ解説」の3編からなったディスク1と、82年に製作されたオリジナル版の『蠢動』に、4部構成の「蠢動-メイキング-」の2編を収めたディスク2の2枚構成になっています。また、オリジナル版『蠢動』の縮小復刻版パンフレットに、初回限定版のみの特典として、10月に行なわれる特別上演会の無料招待カードが入っている豪華なものでした。開封しただけで何かワクワクしてきますが、そもそもワテがこの映画に興味を持ったのは、以前三上監督ご自身が82年のオリジナル自主制作版の重要なコマを並べて、それらにストーリーを加えて仕上げたWebサイトがあったのを見てたことによります。そこに重要な役どころを演じる往年の切られ役俳優として知られる西田良さんが映っていて、『素浪人 月影兵庫』にはまっていたワテはそこにサンシタや雲助等のチンピラ役で良く出ていた彼を見て、そのユーモラスな面と厳しい表情、また、しっかりした殺陣さばき等から、大好きになった俳優さんだったので、オリジナル版の『蠢動』は是非観てみたい映画だったんです。しかし自主制作の古い16mm映画がDVD化されるなんて100%有り得ないと諦めていましたが、それが今になってBD-Box化されて観られるようになったんですから、期待度は観る前からかなり高かったです(笑。
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 では、ディスク1を早速観てみます(画像はそのままコピーするとナンですから、色を落としたり、画像処理をしたりしておきます)。『蠢動-しゅんどう-』本編は劇場で観た時の迫力に少しでも近付けるべく、部屋を真っ暗にして大き目の音量にして50インチTVから1.5mの位置で楽しみました(^∇^)v
 この映画は和太鼓の音が印象的に用いられていますが、いわゆるテーマ曲・挿入曲等の音楽は皆無です。効果音も、例えば風の音やチャンバラのしのぎを削る音、切られた時の肉の裂ける音等、普通に加えられるもの以外は全くなしで、「静」の映像そのものが何かストーリーを語っているような「行間の流れ」を形成しています。その映像はとかく派手な色使いになりがちな現代の映画とは全く異なり、色合いが淡く、コントラストも強くない、昔のフィルム映画のような趣も感じますが、最新のデジタル映像らしく非常にシャープで切れ味鋭いものがあります。それを強調させるのがちょっとしたコマの切り替えで、例えば初めに近いシーンで若い藩士達が屋外で剣術の練習をしているところを城代家老らが見て、言葉を交わすシーンがあるんですが、それまでちょっと引いたところからの画像から、家老と師範代の顔のアップに移る際に、カメラを手前に寄せてアップさせると、バックはそこそこはっきり写る位置関係でした。そうなるとバックが煩雑になりますが、それを離れたところから長目の望遠レンズで撮ることで、バックを大きくぼかしていました。しかし、明るいレンズで絞りを開けると、望遠ではピントが合ったところだけがシャープになり、具体的には目にピンがきたら、耳はもうぼけ始めているようになり、輪郭が眠い画像になる恐れがあるんですが、ここではきっちり全身に切れ味鋭いピントがきているように、適度に絞り込まれているようです。それでもバックは望遠だから大幅にぼけて、人物だけが浮き上がって見えるんです。シーンによってはまるでステレオ画像かと思えるような浮き上がり方でした。
 前にも書きました通り、この映画は基本的に「静」のシーンが多いです。城代家老・荒木を演じる若林豪さんの台詞もそう多くはないですが、彼の表情が多くの言葉を発するんです。眉間のしわやちょっと下を向いた表情が苦悩を表し、同じような表情でも眉尻が上がった感じで横を見ると言いようのない怒りがにじみ出ていました。また、舞台になっている外様である因幡藩へ幕府から剣術指南役としてやってきていた隠密・松宮役の目黒祐樹さんも、普段の目尻の下がった優しい顔付きは微塵も感じられない厳しい表情で、立っているだけで威厳を感じさせる雰囲気を醸し出していました。それに剣術の師範代役で、この映画で最も重要な役回りと言っても良い藩内随一の使い手・原田の役を演じる平岳大さんがまた無表情の中に表情有りと言う趣で、正にこの役には彼しかいないと言う感じの適役でした。背は父親の平幹二朗ゆずりで高いけれど、現代の若手俳優のような細い感じではなくて、首太で鍛え抜かれた体格なのもホレボレしますね。それに、剣術に命を燃やす若い藩士・香川役の脇崎智史さんも、ひょろひょろしておらず力強さがにじみ出ていました。映像特典を見ていたら、彼は甲子園の経験もあるようなスポーツマンだそうで、その体格から言外に「荒々しい青年」を現している訳です。人選も上手くなされていなければ、こうしたイメージは湧かないですが、この映画では監督の選考眼が素晴らしかった証拠になりますね。
 他に本編を観ていて興味深かったのは、シーンの終わりに差し挟まれるちょっとした映像で、これがまた「言外の言」を効果的に表しています。例えば、他藩に修行に出たい香川の姉と、親友の木村が祝言することに決まっていてそれぞれに姉がお守りを作って渡すシーンの後に、清らかな水面に光がキラキラ輝く映像が数秒差し挟まれたり、幕府からの普請費用の割り当てから逃れるために、苦悩する家老が映った後で、枯れ木の映像が映されたりするように、観ていて「細かいところにまで良く配慮されているな」と思いましたが、後でメイキングを観ていたら、そんな点にもちゃんと言及されていました。小説では効果的に一見無意味な一節を差し挟んで心情を表すことが多用されます。代表的な例として、悲しいシーンで「ふと窓の外に目をやると、いつの間にか雨が降り始めていた」なんて一文を加え、言外に悲しみを感じさせる訳ですが、正にそうした手法が随所にちりばめられているんです。自分は文学部で漢文を専攻していましたが、ながらく国語科の教員でもあったので、物語文の読解の際に生徒達には「悲しくなったら雨が降る」なんて冗談交じりに説明していたものです(^∇^)v これは映画でも全く同じですね。しかし、最近の他の映画を観ていて、そうした点が印象に残るものは多くないですが、行間を読み込ませる映画が少なくなったとも言えるような気がしますね。
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 ストーリーはあまり細かくは書けませんが、大筋は幕府から普請工事費の割り当て金が地方の小藩である因幡(いなば)藩(架空)に負わされる恐れがあり、それを何とか回避するために心ならずも様々な立場の藩士らが苦悩し、悲劇に巻き込まれると言うものです。以前にも書きましたが、それぞれの役どころが皆「悪」ではなく、自らの立場・役目を全うしようとしているだけなんです。ですから、敢えて言うなら、怒りをぶつけたくてもぶつけようのないものが「悪」になります。実はこの「怒りをぶつけたくてもぶつけようのないもの」こそ「武士道」であって、この理不尽な武家社会の仕組みが人々を不幸にしている訳です。では、幕府からの隠密を任された剣術指南や、最後に登場する幕府の要人は「悪」ではないのかと言うと、彼らもまたしっかりと自らの使命を全うしようとしているだけで、正しいことをしているに過ぎません。それぞれの立場が因幡藩と言う舞台の上で牽制し合い、争い合い、また支え合っているんですね。前に観た時に「蠢動」の意味が細かい虫達がうごめき合う様であることから、一小藩の中で人々がそれぞれの立場を全うすべく、ざわざわやっているのを俯瞰したような意味合いのタイトルなんだろうと思いましたが、このディスクで三上監督が言及しているように、当事者からすると必死で守る様子も、大局的には小さな虫達の「蠢動」でしかなく、正に大きな目で見ると小さな者達がうごめいているだけの虚しいざわめきなのです。
 最後に若い藩士香川が雪上で仲間であるはずの同士に追われ、図らずも激しく刀を交えるまで、基本的にストーリーは「静」ですが、何か地下で鬱積したものがぶくぶくと湧き出そうな状態で推移して行き、それが剣術指南役と藩内随一の使い手である師範代との殺陣シーンから急にギラギラとした熱いものが噴出するかのように前面に出て、話が「動」へと急転換します。藩の内情・置かれた立場を会話の中で説明しながら進む「起」、それを受けて登場人物それぞれの立場で話が進む「承」、藩の命で大きな事件が発生する「転」、事件の収束のためにかえって大きな事件に発展して、言いようのない虚しさの中で終わる「結」と、登場人物の立場がそれぞれ異なるものを平行して描きながら、最後に一本に絞り込むことで、それらがもの凄い力になって、何か矛盾する言葉になりますが破裂しそうな虚無感のようなものを生み出しているのでしょう。全く計算し尽くされた見事なストーリーだと思います。それに香川の姉役のさとう珠緒が事件を知らされてつらい気持ちの中で親の位牌に手を合わせるシーンで、家を出て他藩に剣術修行に出る弟がそっと姉に残したお礼の品を見付けて涙がこぼれるシーンは、こちらの瞼も熱くなりました。同じく心ならずも気心知れた弟子を追討のために追い詰めながら、最後の最後で迷って傷を負い、何とか城に戻って報告する師範代役の平岳大の迫真の演技は、ぞくぞくっとくるものがありました。言葉ではとても書き尽くせない興奮と虚しさ。本当にたまらないです。
 最後の長時間の殺陣は雪上で1回撮りのもので、まっさらな雪の上での2度撮りはできませんから、綿密に前段階で練習を積んで撮影に臨んだものだそうです。若手藩士達は映像特典によるとオーディションに通った若手俳優さん達で、「チーム蠢動」と名付けられて、長いこと剣術の練習をみっちり積んでいたようです。もちろん昔の時代劇俳優のように剣さばきが身に染み込んでいるようなものはないでしょうが、殺陣師としてその名を轟かせた久世竜一門の後継者である久世浩氏が指導しただけあって、違和感は一切なかったですね。それにワンカットでの長い殺陣シーンは、ともすると疲れから破綻してしまう恐れもあるでしょうが、実際の戦いは正にそんな感じの中でなりふり構わず力を振り絞るもので、例えば中村敦夫主演の『木枯らし紋次郎』の体全体を使ったケンカ殺法にも通じるように、がむしゃらにどんな手でも相手を倒す感じがリアルさを映し出していました。実はこれもちゃんと布石が前半にあって、剣術を磨くことばかり考えている香川が、城代らが見る前でライバルの若手剣士と木刀を交える際に、まるで柔術まがいのやり方で相手を打ち負かすところが描かれていました。つまり、「形」ではなく実践的な剣術を追求していた彼が、思いもよらずに最後で真剣でそれを実践する羽目になってしまう訳です。本当にとことんつながりがしっかりしたシナリオですね。舌を巻くほど感心しちゃいました。それに対し、前にどこかの映画の評価サイトで、この映画の雪上の殺陣シーンで血が出ていないことを挙げて低評価を付けている人がいましたが、ワテに言わせればそんなのは愚の骨頂で、そんなことにこだわるなら、SFのように完全に架空の時代劇において、竹光を使って斬り合う時点で自動的に最低評価になってしまいます。それでも監督の解説にはしっかりとこの辺にも言及されていて、とても興味深いものがありました。まっさらな雪上での1回撮りですから、血を巻き散らす仕掛けを加えることはできなかったでしょうが、それでも別撮りが可能なアップのシーンでは、頚動脈を切り裂くところで血が吹き出る場面を設けていましたね。
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 その最後の殺陣シーンはこれだけの雪の中でのものですから、相当体力を使ったことでしょう。歩くだけでも息が上がるようなところで、多くの者と戦うシーンをノーカットでこなした脇崎智史さんの身体能力は大したもんです。それに画像のように背面の山々がくっきり映っていますが、雪山の遠景だけに煩雑になることはなく、何か緊張感を出すのに役立っています。藩士が急遽招集されて城に入る堀の上の橋を駆けて行くシーンは望遠レンズで撮影し、香川を追って雪道を大勢の藩士が早歩きで進むシーンでは、遠くからの望遠レンズでのアップと標準レンズでの俯瞰を交互に映していましたが、これらは正に「蠢動」している様子とぴったり当てはまる画像でした。それに、この最後の場面で和太鼓が激しく鳴り響き、それまでほとんど効果音の使われていなかったところから一変し、風雲急を告げる感じを強めていました。この太鼓の音もこの映画では実に効果的な役割を果たしていますね。見事です。
 さて、もう1つの『蠢動』、つまり82年の自主制作による16mm版も楽しんでみることにしましょう。これはストーリーが最初から三上監督自身が演じる青年剣士香川が、他藩に修行の旅に出るシーンから始まります。追っ手には親友の木村もいますが、彼は本編とは異なり、香川の姉との祝言を控えた間柄としては設定されておらず、最後も香川が心ならずも木村を自身の刀で斬ってしまうようになっていて、随分ストーリーが変更されていることが分かります。また、追討隊長になる原田(西田良)は、やはり本編とは別に香川を良く理解している先輩ではなく、ただ藩内随一の使い手と言う設定で、本編での原田のような苦悩はあまり感じられません。また城代家老の荒木(玉生司朗)も苦渋の選択で香川を欺くと言うより、悪代官的な冷徹なキャラクターとなっていました。また、幕府からの使者(汐路章)もその風貌から、ただただ「悪」な印象に徹していました。それに本編で見られた剣術指南役はオリジナル版では設けられていませんでした。基本は藩の存続のためにいわれのない罪を何も知らないままかぶって同士を斬り、自分も奈落の底へ陥れられる若い剣士が描かれていますが、この路線一本になります。本編はこれに加えて城代家老から見た流れと、師範代の原田からみた流れがあって、これら3本の本流が絡み合って、さらに支流として親友の木村と姉のつながり、道場で敵対する若手藩士と剣術指南役の松宮の流れが加わり、ともすると煩雑になりそうになるところを上手く本流に飲み込む形で太い一本の流れ(つまり「武士道」と言う形のない「悪」)を組み立てているんです。つまり82年の最初のシナリオから、様々な要素を加えてさらにそれらを吟味し、絶妙のバランスで配された役どころが出来上がったのが本編であると言えましょう。82年のオリジナル版は、監督の若い映画作りに燃える熱気がベテラン俳優を動かして仕上られたもので、自主制作の低予算な中で作られたものにしては、しっかりした内容のものだと言えますし、本編を観た上でこれを鑑賞すると、様々な相違点が見えてきて、実に興味深いものになりますね。大好きな西田良さんの様子は、『俺は用心棒』で演じた新選組山崎烝にも相通じる雰囲気で、とてもシブかったですね。これに対し、いかにも素人然としたその他の役を演じた監督さんの仲間と思われる皆さんの台詞回しや演技は、正直言って西田さんらのベテラン俳優さん達とはもちろんかなりギャップも感じられましたが、あくまでもこのオリジナル版は本編をより一層楽しむための調味料であり、これによって楽しみが一層味わい深くなることは間違いないです。ワテも長年の願望がやっとかなえられて、大変満足できる映像特典でした(^∇^)b

 メイキング編も非常に内容が濃くて、監督の徹底したこだわりや裏話、俳優さん達の意識や役に臨む姿勢、その他大変興味深い内容が満載でした。とにかく、様々な面で細かく読み取るポイントが配されていて、全体としても観終わった後で色々考えさせられるものがあり、しかもそれらの解答の大きなヒントになる話が満載のこのブルーレイディスクBox。おいしい具がたくさん詰まった特上の重箱のような作品ですね。監督さん、次回作も期待してます!

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